用意はいいかい?
 


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我らが武装探偵社は、
ヨコハマという街を巨悪から守るための協力体制「三刻構想」のうちで
白黒が微妙曖昧な部分を担当しており。
法にのっとり正当な手段にて処断するのが基本だが、
拳を上げねば為せぬ正義執行もあるのだと
力技もて悪を薙ぎ払う、正義の荒事収拾部隊という傾向もなくはなく。
軍警から、若しくは異能特務課からの依頼の下、
人知を超えた異能かかわりの手ごわい荒事を捌く、実働活動集団のようでもあるが。(おいおい)
何もそういう、胡乱で きな臭いがために公けにしにくい案件ばかりを請け負ってはいない。
どれほど繁忙かにもよるが、看板を見て訪ねて来られた一般からの依頼も請け負うし、
社員が拾ってきた厄介ごとの収拾に勝手に頑張ることもある。

  人間だもの、情に流されたっていいじゃない。

そんな路線で請け負ったクチとなる、こたびの案件は 微妙にややこしく。
選りにも選って 軍警だか市警だかに身に覚えのない疑いを掛けられたらしいライブハウスのオーナーから、
店が何かしら怪しい取引の舞台になってるらしいとする疑惑を払拭してほしいというもので。
年越しのあわただしさの中、カウントダウンで弾けそうな場所柄ではあるものの、
そんな予見を持たれている中で本当に何か起きては洒落にならない。
その時期は目玉の催しものもあるので、いきなり居住まい正して厳重警戒という訳にもいかず、
何より心当たりがないまま公安に睨まれているという事態、
バンドなんざ 不良やはぐれ者の集まりとか思うものか、
色眼鏡で見られているのがありありする聞き込みへの不愉快さにオーナー様がややご立腹とあって。

  __ 疚しいことなぞ何もしてはいない証明に、藪を叩いてへびを追い出そう大作戦

という方針でライブハウスの周辺を、地域的にも関係者たちの背景的にも洗い出し始めた探偵社だったが、
一般人たる関係者に何かしらの脅威が降っても何なので。
聞き込みや監視をしつつの護衛と、ついでに敵を油断させるオトリも兼ねる格好で、
年少組だが実は素手空手でコンクリを穿つ威力持つバリバリの火力担当、
白虎の異能者・中島敦くんを それはかあいらしい地下アイドルちゃんに仮装させ、
新人でぇす、よろしくお願いしまぁすとばかり、楽屋廻りへ潜入させたところ。
オーナーとマネージャーさんだけには正体も話してあったが、それ以外へは当然ながら内緒の運びな中、
Mちゃんとかいうセミプロ級のアイドル嬢さんが瀬踏みをするよに絡んできて。
素性を怪しまれているなら ようよう観察せねばだが、

 『毛色が変わってるとはよく言うけど、あんたそのまま 毛の色おかしくない?』

何だか判りやすい いけずな物言いを吹っ掛けられたので、
何やら企みを抱えている身でわざわざ騒ぎを起こすようなこういうことはしでかすまいと
これはシロだなと…断じかかったその矢先。

 『おいおい、Mちゃん。 』

 『社長からも言われただろうが、要らねぇ騒ぎを起こすんじゃあねぇよ。』
 『だってぇ。』

彼女の付き人として、
楽屋エリアにあたるバックヤードへひょこりと顔を出したのは 他でもない、
ポートマフィアの五大幹部が一隅、中原中也さんだったりしたものだから。
ついつい “年の瀬に暇なんだ、ポートマフィア…”と、
敦くんの付き人だった谷崎さんが内心でツッコミを入れたのは言うまでもなく
……じゃあなくて。

 「手前、何でこんなところに…。」

場末のライブハウスという場所柄上なんていう偏見は抜きにして、
バックヤードの廊下の途中で照明が煌々と灯されているでなし。
探偵社の腕利きのお姉さま方から思いきりいじられたので、
もしかしたら誤魔化せるかなと一瞬でも思ってか、やや引きつった貌になったのをこそ案じられたようで。
怪訝というよりどこか具合でも悪いのかと問うような、
そんなお顔で覗き込まれかかったのがツキンと微かに痛い。
ああ、ボクだって判るんだなぁと ほんのり嬉しいような、
でも仕事中だし何よりこんな格好のところを観られたなんて恥ずかしかったりもし。
いやあの・えっとと、見るからに浮足立った様子であたふた弁解しかかった敦だったのへ、

 「あ、あああ敦子ちゃん。事務所の方に連絡入れないと、ほら行こうねぇ。」

谷崎が機転を利かせ、へこへこと誰彼構わずというノリでお辞儀を振りまきながら やや強引に手を取って引き寄せる。
いかにも泡を喰っての慌てた様子なのへ、
おやと何やら気づいたか、やや眉をしかめはしたが
中也の側も側であまり騒ぎを起こしたくはなかったか、それ以上強引に待てと引き留めはしないまま、
ライブハウスの外へ、焦りつつ出てゆく二人をそのまま見送った格好になったのだが。




 「そうか、ポートマフィアでも懸念していたか。」
 「ということは麻薬関係、若しくは盗品売買ってところだね。」

これは直接伝えた方が良かろうと、
通りすがりに事情の通じているマネージャーさんへ業務連絡ですと断ってから、
音合わせとかいうリハーサルから急遽抜け、
通用口で待機していた国木田とともに、やや離れたところに停めていた指揮車へ向かう。
そこには乱歩と与謝野が待機しており、
これこれこうと、万が一にも盗聴されないよう抱えてきた状況を話したところ、
店の文字通り表の窓口にて チケット販売を担当していたところから合流した太宰も
状況は隠しカメラ越しに見聞きしていたため、はぁあと やや不快そうな顔になってそうと断言。

 「懸念って。」
 「黒幕だということはないのでしょうか。」

何と言っても相手はヨコハマの暗部で
犯罪は何でもござれという肩書をひけらかしているような組織であるのは周知の事実。
敦としては、大好きな中也相手に悪く言うのは気も引けたもののそれでも
何者かが悪さを構えているのを炙り出さんという態勢である以上、
その対象にドストライクではまる人たちではないかと、ついつい谷崎とともに疑念を口にしたものの、

「それはないな。」

意外や、彼の組織を元幹部としてようよう知る太宰が肩をすくめて苦笑した。

「言っちゃあなんだが、此処のオーナーは味方にした方が良い存在だからね。
 傘下にとか隠れ蓑にと取り込むにしたって脅しすかしは効かないタイプだし、
 むしろ真っ向から対立の構えをとられるだけだろうから、
 怒らせず穏便にと接した方がいい相手だよ。」

何も脅しで抑え込むばかりが策じゃあないと、単純拙速なところをやんわりいなしてから、
それにと付け足したのが、

「別に庇う義理もないからこそ言うのだが、
 元町医者だからってわけでもないけど、
 あちらの首魁は薬関係と子供の売買は毛嫌いしているからねぇ。」

ポートマフィアの首領、森鴎外氏の矜持に反する犯罪だとしょっぱそうな顔をする。
そういえばと、そこは敦にも覚えがあるものか、
納得に至って疑問は引っ込めたようだった。
軍警からろくに情報は入れられていなかったこちら側。
怪しい取引とまでしか掴めてなかったが、
一応、探偵社なりの裏どりをしたものの、何と警察側でもそこのところは明確にはなってなかったらしく、
なのでライブハウスも一枚噛んでないかと疑われていたという順番だった模様。
五大幹部が出て来る辺り大きな事態かとも思われたが、

「それはどうだろうね。」

乱歩さんが、何か根っこが見えたなと一気に関心を失くしたようで。
投げやりに言ったのが、

「小芝居が要る、独断で処せるという条件があって、小器用な彼でないと面倒な事態だからだろうよ。」
「???」
「だからぁ。さすがに地元の老舗、しかも堅実で評判もいい、
 根っこがしっかりしていて、夜の顔役でもあるところと揉めたくないから穏便に運びたいんじゃないの?」

大人数繰り出して事態収拾込みでって素早さで鎮めても、
手際の良さやそういう荒事への慣れ、しいては力づくって印象しか生まれない。
却ってオーナーさんには警戒しか植え付けなかろうから、
臨機応変の利く素敵帽子くんを派遣した。
そういうことだと思うよ、と。

 「オーナーとしても、夜のこの街の力関係は知っていようしね。」
 「…え?」

棒付きの飴を咥えつつ、さしたる感慨も無さげにそうと告げたは、退屈そうな顔になった乱歩さんで。
そういう権勢めいたものへの関心は無い派であれ、
つまらぬ騒ぎで煩わされてもしょうがないくらいは思うもんだろう?という意味か、

 「庭のどこらへんに つまづく石があるかくらいは覚えておいても面倒でもないし。」

大方、そんな解釈での把握であるらしく。

 「まあ、犯罪組織相手にあんまり楽観的過ぎても何だけど。
  彼ほどの存在が送り出されて来たことで、
  面倒臭いところを丁寧に対処したいらしいと踏んでいいと思うよ。」

乱歩がそうと言い、そこは太宰も了承するものか、
やれやれと言いたげに肩をすくめて見せたのだった。




to be continued.(19.12.22.〜)


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 *NHK新春スぺサルドラマの紹介スポット見るたびに、
  芥川龍之介と名前連呼されてドギマギする変な奴です。

  それはともかく

  相変わらず亀の歩みですみません。
  ポートマフィア側の “アイドル”担当はエリスちゃんにしようかと思わないでもなかったんですが、
  異能さんなので森さんまで担ぎ出さなきゃならなくなるし、
  私のエリスちゃんをよそのオタクな輩に晒すなんて…と首領がごねて尺が長くなるだけなので辞めました。